AKASHI BEER × AstroX × KOCHI UNIVERSITY OF TECHNOLOGY
日本の一日は、明石からはじまります。日本標準時子午線・東経135度が通るまち。その明石で醸したビールが、ロケットに乗ります。三者契約、締結しました。
2022年8月24日、明石ビールに、一通のメールが届きました。堺政人さん。弊社の舞子でのイベントでビールを端から端まで飲むといって顔見知りになった人です。将来宇宙旅行が実現しても、ビールも飲めないなんて楽しいのだろうか?それならまず私が宇宙に持ち込んでみたいと。
趣味でビールを作っていますが、いざ宇宙に持っていくとなると、どこかメーカーに協力してもらうしかない。突然ですが協力してほしいというものでした。
ビールを宇宙に送ろうかと考えている変な奴ですが、怪しいものではございませんのでご安心いただきたく存じます。
現在は芦屋市に在住ですが、地元の明石にて今回の実験にご協力いただける会社が見つかり感謝しております。
堺 政人/2022年8月24日のメールより
明石ビールは、この「変な奴」にかけてみました。
堺さんは、銀行員を準定年退職後、ベンチャーキャピタリストをしていた時に学びなおしで京都大学大学院に進学しMBAを取得し、その後さらに、高知工科大学博士後期課程で学ばれた変人です。学内で宇宙実験公募を目にしたとき、何か面白いことが出来そうだと、即座に宇宙にビールを届ける計画を思いついたようです。
2022年9月22日、本申請を提出。学内審査を通り、話は現実となりました。一番びっくりしたのはご本人だったようです。難しい研究内容の応募者が多数の中、ビールを届けるというバカバカしい実験が、まさか採用されるとは思ってもいなかったようです。
12月27日、ロケット打ち上げベンチャー企業を訪問し、ペイロード(荷物)や詳細の打合せを終え順調に物事が進んでいるようでした。
堺さんは、何度も明石ビールの工場に来て、ビールの試飲をしていました。もちろん飲んでばかりではなく、地上での簡易的な真空実験も行いました。
しかし突然、宇宙計画はなくなりました。ベンチャー企業側の方針が変わり、延期ではなく中止となりました。
誰かが投げ出したわけではありません。ただ、載せる便がなかった。話は少しずつ間遠になり、2023年1月11日のメールを最後に、このプロジェクトの受信箱は静かになりました。
用意していた缶は、地上に残りました。「宇宙」という言葉が、明石の小さな醸造所に一度は本気で届いて、そして遠ざかっていきました。悔しさというより、静かに手が離れていく感じでした。
その間、このプロジェクトに関するメールは一通も届いていません。数えてみると、三年三か月です。
ビールは造り続けました。明石の店に並べ、オンラインで送り、季節ごとに新しいものを仕込みました。宇宙の話は、いつのまにか「昔そんな話があってね」と笑って話す出来事になっていました。
2026年4月14日。堺さんから一通のメールが転送されてきます。差出人は、高知工科大学システム工学群の山本真行教授。日程調整の、ごく短い文面でした。
山本教授は、あの2022年の公募を主催していた側の先生です。宇宙地球探査システム研究室と、インフラサウンド研究室を率いています。そして今度は、宇宙スタートアップAstroX社との共同実験という新しい枠組みを持っていました。
先生は、明石ビールのことを忘れていませんでした。三年前に一度、地上に残された缶があることを覚えていて、次の便が見えたときに、もう一度声をかけてくれた。それがこのプロジェクトの、二度目のはじまりです。
「4/20大丈夫ですのでよろしくお願いします」。返事は、それだけで足りました。
4月20日18時、Zoom。画面に並んだのは四人です。山本教授、堺さん、明石ビールの長澤正直、そして初対面のAstroX 大谷和彦氏。
AstroXは、ロケットを気球で高高度まで吊り上げ、空中から打ち上げる方式に挑む会社です。地上の射場に縛られない打上げを目指す、まだ誰も定期便を持っていない領域。だからこそ、ビールが乗る余地がありました。
会議のあと、大谷氏からメールが届きます。
宇宙というと構えてしまったり、自分とは関係がないや、と思われがちですので、こういったワクワクするようなプロジェクトは非常に面白く、私個人としてもとても興味深いですので、何かしらの形で実現できる道を探って参ります。
(P.S. 以前仕事の関係で兵庫県高砂市に住んでいたという縁もあり、なんとか実現させたいなと思っております)
AstroX 大谷 和彦/2026年4月20日のメールより
高砂は、明石の西隣。加古川を渡ってすぐのまちです。宇宙を運ぶ会社の担当者が、かつてこの土地に住んでいた。そんな偶然が、この日の空気を決めました。
同じ日、山本教授からも一通。こちらは、もっと率直でした。
本件、どう着地できるかはまだ見通せませんが、1つでも話題づくりや搭載実績になるように続けていければと考えております。(中略)今後の展開によりうまく進まない場合もあり得るかと存じますが、その際には何卒ご容赦ください。
高知工科大学 山本 真行 教授/2026年4月20日のメールより
一度断念を経験した側にとって、この一文はありがたいものでした。うまくいくとは誰も言わない。それでも進める。二度目は、そういう始まり方をしました。
その3日後、山本教授から届いたメールが、このプロジェクトの性格を決めました。
缶ビールって、プシュッ! と開けますよね。まだ試していませんが、インフラサウンドが出ていると思うのです。
高知工科大学 山本 真行 教授/2026年4月23日のメールより
インフラサウンドとは、人の耳では聞こえない20Hz以下の超低周波音のこと。火山噴火や隕石落下を遠くから捉える手がかりで、山本研究室が長年追いかけてきた研究対象です。
上空で本物の缶を開けるのは危険が大きい。そこで今回は、ロケットがもともと行う動きをそのまま利用して、ビールの栓を開ける瞬間を再現する。そのときに生じる圧力の変化を、インフラサウンドセンサーが生きているか、正しく測れているかを確かめるのに使う。そして、その仕組みに“相乗り”する形で、ちゃんとビールも載せる。
※ 高知工科大学では以前、二酸化炭素を噴き出して圧力の波をつくる装置が、学生の提案として同じ公募で採択されています(正式には「ロケット搭載インフラサウンド較正装置」といいます)。今回は新しい装置を積まず、ロケットがもともと行う動きを使います。
ビールは、ただのシンボルではなくなりました。宇宙で「プシュッ」と乾杯する日のための、最初の一歩です。
寄附の手続き、間接経費の調整、弁護士レビュー、押印の不備。派手さのない実務を四か月積み重ねて、2026年8月20日、契約は締結されました。
当事者は三者。AstroX株式会社(打上げ)、高知県公立大学法人 高知工科大学(共同実験・環境試験)、そして明石ビール株式会社(ペイロード提供)。
契約書には、明石ビールから申し入れた条項が入っています。打上げと共同実験を記念したビール商品を、製造・広告・販売できること。宇宙に行く前から、帰ってきたあとの話をしていました。
AstroX社が開発するのは、ロケットを気球で高高度まで吊り上げ、そこから点火して打ち上げる「Rockoon」方式。地上の射場に縛られず、天候の影響を受けにくい打上げを目指す方式です。
明石で醸されたビールは、まず高知工科大学へ。真空・振動・衝撃の事前試験を経て「宇宙用ビール容器」として担保され、AstroXの機体へ引き渡されます。
搭載する容器は、高さ約11cm・直径約4cmのアルミボトル。輸送中に凹まないよう、水道水を満たした状態でサンプルが両者へ送られ、いま実機のレイアウト設計が進んでいます。
明石は、日本の時刻を決めるまちです。東経135度、日本標準時子午線。時計塔を持つ明石市立天文科学館が建ち、市民は子どもの頃から「宇宙」と「時間」を身近なものとして育ちます。
地上のあらゆる打上げ時刻は、この線を基準に数えられています。時のはじまる場所のビールが、宇宙へ行く。これ以上ふさわしい出発点は、そうありません。
打上げの日程が決まり次第、記念ビールの詳細をお知らせします。まずはオンラインショップで、宇宙へ行くのと同じ醸造所のビールをどうぞ。地上での一杯から、はじめてください。
一度は手が離れた夢に、いま、近づいています。
明石ビール オンラインショップ※ 打上げ時期・飛行高度・機体名称は本稿執筆時点で確定しておりません。確定次第、更新いたします。
このプロジェクトは、企業でも大学でもなく、一人の個人の思いつきから始まりました。三者の契約書の一行目より先に、この一文があります。
ビールを宇宙に送ろうかと考えている変な奴ですが、怪しいものではございませんのでご安心いただきたく存じます。
発起人 堺 政人/2022年8月24日、明石ビールへの最初のメール私はいつからか大空に興味がありました。人類は、いつか宇宙旅行を当たり前に楽しむことが出来るでしょう。唐揚げは宇宙食になったと聞いています。その時、ビールが飲めないなんてつまらないと思いませんか?まず小さな一歩を誰かが刻まないと始まりません。今回このバカバカしい計画に合意いただいた皆様方には、感謝の想いでいっぱいです。
発起人の思い 堺 政人/2026年9月7日※ 各社・ご本人の連絡先は、掲載可否をご確認のうえ確定します。
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